銀行が暗号資産とのつながりを認識する必要性

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暗号資産の領域において米国ではいくつかの進展があり、規制当局がデジタル資産の取り扱いに向けて動き始めていたり、当局が金融機関に対しそのようなデジタル資産へのつながり(exposure)を把握しリスクへの対策を講じることを求めていたりといったことがあります。ここ数ヶ月の間に米国では、アメリカ合衆国通貨監査局(Office of the Comptroller of the Currency: OCC)が国法銀行はデジタル資産の信託(カストディ)サービスを顧客に提供可能であると明言した他、ワイオミング州銀行局は初の特別目的預金金融機関(Special Purpose Depository Institution: SPDI)として、暗号資産取引所Krakenを承認しました。暗号資産取引所が銀行としての扱いを受けるのは世界でも初めての例です。また、州法銀行監督官協会(the Conference of State Bank Supervisors: CSBS)は、暗号資産関連の会社がよりグローバル展開しやすいように法規制を変える計画を明らかにしました。

このような動きは、人口拡大、特に若い消費者に向けて、銀行などの金融機関が新たな資産クラスに手をつけようとしていることのあらわれと言えるでしょう。しかし、米国財務省金融犯罪取締ネットワーク(the Treasury Department’s Financial Crimes Enforcement Network: FinCEN)のディレクターKenneth A. Blanco氏は、暗号資産を取り扱うつもりのない銀行であっても、規制要件を満たすために、暗号資産を取り巻く状況を理解し、顧客がどのように暗号資産に触れているのかをモニタリングする必要があると述べました。

先月、Blanco氏はACAMS Virtual Las Vegas Conferenceにて講演し、Covid-19の混乱に乗じた詐欺やそれに対しどのようにFinCENが対抗しているのかなどといったトピックを扱いました。ただその講演の中でも、なぜ全ての銀行が暗号資産へのつながりを気にする必要があるのか、目を向けなかった場合にどのようなリスクがあるのか、ということに触れたのが最も注目すべき発言でした。具体的には、Blanco氏はこのように述べています。「このような議論をしている中で常に上がってくる課題は、暗号資産を含む新興の決済システムに関わるリスクをどう緩和できるかということだ。これは明確に言っておくが、暗号資産のリスクは暗号資産取引所だけに関わるわけではない。暗号資産のリスクは、資金移動業や暗号資産取引所に限った話ではなく、銀行も意識しなければならない。」

この発言は、銀行自体が暗号資産を取り扱わなくても、その顧客が暗号資産で違法な活動に関わっていた場合、その銀行に責任が問われる可能性がある、ということを示唆しています。例えば、銀行の顧客が暗号資産取引所の口座に送金し、さらにそれを暗号資産に変えて制裁対象の個人やダークネットマーケットなどに送金するということがあれば、このような銀行が抱えるリスクは規制当局にとってやっかいなものとなり得ます。同様に、もし銀行のある顧客がランサムウェアを使って他人を脅し、暗号資産で身代金を受け取って、それを暗号資産取引所で現金化し、それを銀行口座で受け取ったとすれば、その顧客は銀行にとってのリスクをもたらすことになります。以下に、銀行がどのようにしてコンプライアンスプログラムに暗号資産を組み込めるかを論じます。

銀行の立場で暗号資産とのつながりやリスクを把握すること

Blanco氏が講演で述べたように、暗号資産リスクを評価する銀行は、まず暗号資産を持つ既存顧客を

どのように把握できるかと自問する必要があります。

銀行によっては、自身の顧客が暗号資産を利用しているなど考えもしない場合もあるでしょう。実際、Chainalysisが一年前に投資専門家グループに対し行ったアンケートによると、暗号資産を利用する顧客はいないだろう、との回答が全体の約1/3を占めました。Wells Fargoなどの銀行は、暗号資産ビジネス (取引所)への送金を完全に禁止しました。そのような送金をする顧客はほとんどいないと見込んでいたのかもしれません。しかし、これは事実と反する見解でしょう。金融コンサルティングファームCornerstone Advisorsの最近の調査によれば、アメリカ人の15%は何らかの形で暗号資産を購入したことがあり、11%は今後購入する予定があるとのことです。また、若い消費者は暗号資産を買ったことがある可能性が一層高いことを示す他の調査もあります。銀行の顧客が全く暗号資産に触れていないとの見方は実態に促しておらず、規制当局にも問題視されかねません。

さて、ある程度の顧客は暗号資産を買っていると銀行が認めたとして、銀行は暗号資産のリスクについて何をすれば良いのでしょうか。最初のステップは、最もポピュラーな暗号資産取引所について知ることです。暗号資産取引所は法定通貨と暗号資産が取引される場所であり、顧客が暗号資産を購入するために送金を行う最も一般的な場所です。まず銀行は、SWIFTメッセージやACH送金、デビットカードトランザクションから暗号資産取引所との取り日引きを把握できるようなシステムを整備する必要があるでしょう。取引所の取引量や人気度は日々変わるため、リアルタイムに取引所とのつながりを把握できるようにすることが望ましいでしょう。銀行がそのような活動、つまり顧客と暗号資産取引所との取引を監視すれば、おのずとそれまでには見えてこなかった暗号資産関連のトランザクションが明らかになるでしょう。そして、そこからやるべきことは、アンチマネーロンダリングのポリシーに基づき、それらのトランザクションのリスクを評価し、疑わしい取引がないかをチェックすることです。

長期的に言えば、銀行は、直接に口座を提供する暗号資産ビジネスのみならず、顧客が取引を行う各暗号資産取引所についても評価していく必要があるでしょう。手始めとして行うべきことは、各取引所のビジネスモデルやコンプライアンスプログラムの質、事業を行う国(法域)を把握することですが、このような定性的な情報だけでは不十分です。銀行は、暗号資産の領域において、暗号資産取引所リスクある取引相手とどれだけのつながりがあるのかを測ることで、取引所のコンプライアンスが十分なものかを評価するべきです。ただ、この方法は銀行が取引所と関わるべきか否かを判断するのに有力ですが、ほとんどの銀行はそのためのデータを持ち合わせていません。そのため、暗号資産のエコシステムを深く理解し、どの暗号資産取引所が安全でどれが要注意なのかを示せるような、信頼のおけるデータプロバイダとの協業が必要です。暗号資産の領域に慣れてくるにつれて、銀行は、顧客がよく利用するような信用のおける取引所のコンプライアンスチームと良い関係を築き、共に問題に対応していけるでしょう。

銀行の暗号資産への適応に向けた始動

規制当局が銀行に対し、コンプライアンス/AMLプログラムで暗号資産の活動にどう対処できるのか、暗号資産に関するリスクがどれだけあるのか、を示せるように求めていくことにまもなくなるだろうとBlanco氏が明言したように、銀行の早期の始動が必要です。規制当局がそのようなことを求める前に先立って、情報収集をすることから始めておくと良いでしょう。

最初は大変なことかもしれませんが、このような着実なステップを踏めば銀行のコンプライアンス部門も暗号資産に慣れていけるでしょう。その後何が起こるかは誰にも分からないものの、暗号資産リスクに対処する運用が定まれば、銀行として暗号資産にどう適応していけば良いかのアイディアが開けるかもしれません。

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