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北米:DeFiは世界第2位の暗号資産市場で 成長を加速するも、 ランサムウェアが懸念材料

北米は、当社が調査した対象国の中で2番目に大きな暗号資産市場であり、2020年7月から2021年6月の間に7,500億ドル以上の暗号資産を受信しました。この取引量は、同期間の世界の活動の18.4%に相当します。米国は、この活動の大部分を占めているほか、草の根的な普及率が比較的高く、当社が発表した2021年世界暗号資産導入指標(2021 Global Crypto Adoption Index)では、8位に位置しています。この順位の主な背景としては、インターネットの利用人口と購買力に比例して、暗号資産の受信総額とリテール規模の取引の受信額が高かったこと(それぞれ第4位と第3位)があります。すなわち、米国では、他のどの国よりも、購買力の向かう先として暗号資産を選択する人の割合が多いということです。

米国は、当社が新たに発表した国別DeFi普及指数(Global DeFi Adoption Index)でも1位に位置しています。この指数は、特にDeFiプラットフォームの草の根的な普及率を基準に各国をランク付けしたものです。後述しますが、DeFiは昨年の北米における暗号資産の急成長において大きな役割を果たしており、DeFiプラットフォームのいくつかは、当地域で人気の高いプラットフォームになっています。本レポートでは、これらの成長トレンドに加えて、北米、特に米国におけるランサムウェアの問題について以下で説明します。

DeFiは昨年の北米における暗号資産成長の原動力

北米の暗号資産の月間取引額は、調査の対象期間において大幅に増加しました。具体的には2020年7月の144億ドルから2021年5月の1,640億ドルへと1,000%以上増加し、6月に入り、やや減少しました。この成長の大きな要因は、DeFiの人気の高まりにあります。

また、この成長により、北米は世界有数のDeFi市場になりました。

北米では2020年7月から2021年6月の間に、約2,760億ドル相当の暗号資産がDeFiプラットフォームに送信されました。これは、中央・北・西ヨーロッパ(CNWE)の3,890億ドルに次いで2番目に大きな額で、同期間中のDeFi取引は北米全体の取引高の37%を占めていました。CNWEと中央・南アジアおよびオセアニア(CSAO)だけが、北米よりもDeFiの割合が高く、最近ではDeFiの活動が中央集権型サービスを上回っています。

DeFiの場合、取引規模の大きな投資家によって活動が牽引される傾向にありますが、米国では、取引額が1万ドル以下のリテール規模のDeFi取引によって活動が先導されており、この点は興味深いといえます。このリテール取引ではカナダが4位に位置しており、DeFiが北米のリテール市場に深く浸透していることがわかります。

DeFiプラットフォームのいくつかは、北米の暗号資産ユーザーに人気のあるサービスとして上位に位置しており、取引額ではUniswapが1位になっています。


北米全体としては、取引額の多い上位25の暗号資産サービスのうち9つがDeFiプロトコルであり、最も人気が高いのが、Uniswap、dydx、Compoundです。さらに、これら3つのプラットフォームはいずれも、DeFi特有のユースケースを実現しています。Uniswapは分散型取引所(DEX)です。つまり、従来の中央取引所と同様の機能を提供しますが、保管型ではなく、中央取引所では利用できないさまざまなERC-20トークンの取引が可能です。一方、dydxは暗号資産デリバティブに、Compoundは金利ベースのレンディングに重点を置いています。これら3つのサービスに比較的人気が集まっているということは、DeFi特定のユースケースの中でも何か1つだけが評価されているのではなく、さまざまな理由からDeFiという分野に幅広い関心があることを示唆しています。

dydxの成長をリードするDavid Gogel氏は、DeFiの現在の普及状況について次のように語っており、昨年北米でDeFiが急成長した背景を理解する手助けとなるでしょう。

「現在、DeFiは暗号資産の関係者をターゲットにしています。同業界に長く身を置き、新しい資産を試すのに十分な資金を持っている人たちです」

また、Gogel氏は、この分野で先行している国として、特に米国、そして中国、ロシア、西ヨーロッパのいくつかの国を挙げていますが、それは驚くことではありません。現在では、北米の多くの機関投資家が暗号資産への大規模な投資に向けて動き出しています。したがって、新しい種類のコインやレンディングなどのユースケースに焦点を当てているDeFi業界のプロジェクトが、暗号資産投資の利益を追求するための次の妥当なステップとなることは自然な流れです。

北米はランサムウェア攻撃の最大の標的

暗号資産関連の犯罪と不正行為に関しては、北米がランサムウェア攻撃の最大の標的になっています。注目すべきは、当社が調査した1年の間に同地域がその最大の被害国になったことです。

2020年7月から2021年6月の間に北米のユーザーがランサムウェアの攻撃者に支払った金額は1億3,100万ドル相当に及んでいます。これは、送金額で2番目に多かった西ヨーロッパの2倍以上です。

調査期間中に北米の被害者から最も多くの資金を奪ったランサムウェアには、NetWalker、Egregor、Phoenix Cryptolocker、Doppelpaymerなどがあり、これらはすべて、かつてロシア政府とつながりのあったEvil Corpなど、ロシアを拠点とするサイバー犯罪グループと関係しています。

これが発端となり、ジョー・バイデン米大統領はロシアのウラジーミル・プーチン大統領に対し、ランサムウェア犯罪グループを取り締まるよう要求し、攻撃が続く場合は単なる犯罪ではなく、国家安全保障上の事案として扱うとことになると警告しました。多くのランサムウェア攻撃は、病院エネルギー供給事業者銀行など、非常に重要なインフラを構成する組織を標的としているため、米国司法省は6月にランサムウェア攻撃の調査をテロと同様の優先順位に引き上げました。当社のグローバル・パブリックセクターのGurvais Grigg最高技術責任者(CTO)が主張するように、ランサムウェアとテロの類似性は解決策にまで及ぶため、テロ対策戦略はランサムウェアにも適用できるのです。

ランサムウェアは、暗号資産関連の犯罪の中で最も急速に増加している手口の1つであり、標的となっている組織の性質を考えると、現実世界で最も危険な犯罪と言えます。しかし、前述の通り、広範囲に攻撃を仕掛けている悪質なアクターの数は、驚くほど少ないのです。ランサムウェアの数は無限にあるように見えますが、実際は、ランサムウェアの攻撃者は、複数の攻撃を頻繁に切り替えて犯罪を実行しています。それだけでなく、攻撃を仕掛けるために使っているインフラプロバイダーや、被害者から奪った資金を換金するマネーロンダリング業者も、複数の異なるランサムウェアと協業する傾向にあります。これらの各グループの最大のプレイヤーに対して法執行機関が行動を起こすことで、複数の勢力に打撃を与え、活動を阻止することができます。実際にこの戦略が活かされた例として、今年に入って、世界で最も多く使われていたランサムウェアの1つであるNetwalkerの主要なアフィリエイトが、米国当局によって逮捕され、これによりNetWalkerは閉鎖されました。ブロックチェーン分析の結果では、このアフィリエイトによるRagnar LockerやSodinokibiなど、他のランサムウェア攻撃への関与も示唆されています。

つまり、1人のアフィリエイトを逮捕したことで、法執行機関は主要な3つのランサムウェアに打撃を与えることができたのです。ランサムウェア開発者は主にロシアを拠点としている可能性がありますが、ランサムウェアの実行を可能にするアクターのサプライチェーンはグローバルです。したがって、どのつながりから着手しても、北米の法執行機関には、その活動を阻止できる可能性があるのです。